雫、巡る

新得町は総面積の約90%が森林地帯である上流の地域です。
そんな新得町は水の美味しい町です。

近年、新得町の水の美味しさをアピールするために、新得町役場では『雫、巡る』というペットボトルの水を出しています。Amazonでも販売されているその商品説明では、
『北海道新得町は、日高山脈と大雪山系に囲まれた場所に位置し、水源地が数多く点在する水源の町です。日高山脈から流れ出る清涼な水を使用しております。 表流水で製造しております。 』
と書かれています。つまりこの水は新得町自慢の上水道です。

ところが、井戸水(特に深井戸)の場合は、全てではありませんが、意外と鉄分が多くて、それで飲み水を躊躇ったり、浄水器を態々設置するという現実もあります。

先日、十勝のある地域に移住された方と話す機会がありました。その方は、水が美味しいと聞きつけて新得町への引越を検討されていました。
「私の住む地域では井戸水がいまひとつなんです。周囲は牛を飼う農家で、水質検査をすると<硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素>が8mg/Lぐらいあるんですよ。(ちなみに水質基準値は10mg/L 以下)」

その話を聞いた時、残念ながら我家の、お客様にすこぶる評判の良い自慢の浅井戸は、すでにその値に達していました。そこであらためて我家の営業27年間のデータを見直してみました。始めはゼロ近い値から2.5mg/Lあたりを示していたものの、2008年あたりからその値が上昇していました。
<硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素>の値が上昇する窒素過多状態は土壌に蓄積された化学肥料や堆肥糞尿が主な原因とされています。そして周りを見てみると、この間の農業環境の変化を改めて感じています。

かつて近所の酪農家さんは、百頭未満の牛を放牧中心に飼育搾乳していましたが、現在すでにその農家は引退し、周りでは農業も法人化が進んで、その10倍ぐらいの牛がゲージの中で飼育搾乳されてる超大型酪農業が我家近くのサホロ川の上流域あるいは下流域で営んでおられます。もちろん十勝の農業(酪農・畑作・畜産)の大型化はここだけの話ではありません。こう大型化されると、牛飼いは自家牧草ではもちろん補いきれず、配合飼料の割合も増えて、牛からの排出物はその中エリア内では処理しきれず、その廃棄物は肥料として畑作農家にも回さていきます。その結果、畑は窒素過多傾向になると想像できます。さらには作物に吸収仕切れなかった窒素分は畑に残り、そして土壌浸透し地下水に入ったり、河川に流れていくことになるでしょう。

科学技術庁の食品成分分析調査で、昭和26年と平成14年を比べて見ると 例えば ほうれん草の場合、ビタミンAで約91% ビタミンCで約77% 鉄分で約85%のの栄養素が減少しています。これだけ充分な肥料を与えても、つまり窒素肥料の影響で立派な色や形になるほうれん草も、中身(栄養素)は貧弱になり、昔の何倍も食べないと昔と同様の栄養が身体に入っていかないというなのでしょうか。

もちろんこれでは駄目だと、牛から出る廃棄物をバイオマスエネルギーなどの利用を模索している市町村もあるのですが、残念ですが新得町では、まだまだ遅れている現状が見受けられます。

又、すでに土壌汚染を認識している他市町村では、住民に対して補助をしています。調べてみますと隣町の清水町をはじめ近隣市町村では上水道が引けない地域の住民の浄水器設置補助をはじめ、千葉県の市町村では90パーセント以上の補助もありました。ただこれまた残念なのですが新得町では、そのような補助は全くありません。もしかしてこれは行政の認識として「水の美味しい町」だからでしょうか。

そこで美味しいと言われる新得町の上水道を引くことにした場合、聞くところによると、工事に約1万円/メートル、国道等を貫通する場合その50倍以上の費用がかかることが判りました。

上水道に関して言えば、都会からの移住者が市街地の住宅街に住んで頂ければ問題が無いかもしれません。しかし新得町の面積は東京都の約1/2です。そこに人口約6000人です。移住者が求める田舎暮らしが上水道の無い地域である可能性は大いに考えられます。又、上水道を引く事が可能でも、距離がかなりある可能性も考えられます。その時、思うほど水も旨くなく、旨い水を飲み続けるために、さらなる費用がかさむとなると、移住を考え直す可能性は大きくなるでしょう。

ペットボトルの商品説明では
『「雫、巡る」には、水が巡り人や森を潤し、森を大切にする気持ちが広がって行くようにという願いが込められています』
と、あります。

森を潤した美味しい水は、里にも巡ります。

『田舎は水が旨くて、空気が美味しい』

そんな自然環境は諦めてもらう。などという寂しい新得町になってもらわないためにも、行政の対策・指導、そして住民への支援は、人を潤すためにも重要です。
大いに期待したいものです。